INTERVIEW 04
軌道上サービス経済圏を確立し
安全で持続可能な宇宙開発の実現へ
エースタートとの出会いと印象
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渡邊エースタートとの出会いのきっかけの話もしておきたいですね。2017年の春なので7年以上も前なんですよ。その時は弊社もまだ小さなファンド規模のVCでしたので。
出資決定のために、すべての仕事をキャンセルしてシンガポールまでお会いしに行って。 -
岡田シンガポール、懐かしいですね。
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渡邊そうですね。夕方4時にお会いして。
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岡田よく覚えてますね!そこからはすべて覚えてます。
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渡邊翌朝までずっとご一緒させていただいて。その時は一緒に出資理由などを色々と議論していたんですけど。また次の日もお会いしにいって。
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岡田そうなんですよ。もう一回お会いして。
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渡邊その時に、満面の笑みで握手して、「渡邊さん一緒にやりましょう」って言ってくださって。いやぁ、嬉しかったですね。あれがスタートですね。
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岡田私から見たエースタートの印象をお話してもいいですか。
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渡邊ぜひお願いします。
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岡田上場時に株主は50数名おられましたが、エースタートにしかない特徴があるんですよ。それはですね、「課題」と「人」だけを見て出資を決めているんです。これは当たり前のことかと思われるんですけども、他の投資家とは本質的に違うんですよね。エースタートって本質的にはチェック項目が2つしかないんです。この課題は面白い、お金を張る価値があるんだろうか? この経営者に張っていいのか?という点ですよね。
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渡邊鋭いですね(笑)。
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岡田僕は実はこれが本質的にベンチャーキャピタルがあるべき姿じゃないかと思ってるんです。200ぐらいのチェック項目を作って、すべての項目にチェックをいれることは大事かもしれませんが、最後に納得して腑に落ちる点は何なのかっていうところです。項目数じゃないと思うんですよ。自分が腑に落ちて誰かにお金を出すんだったら、課題はなんですか?どんな人ですか?本質的には、そこであろうな、と。
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渡邊おっしゃる通りですね。でも、そこまで納得できたからこそ、その後もフォロー投資をし続けていけたんですよ。じゃないといけないですよ。
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岡田最初に投資いただいたシリーズCも嬉しかったんですが、僕がすごく嬉しかったのは、シリーズEのリード投資をしていただいた時です。リードって違うんですよ。リードって成功の確信がないとできないですし、かつ、もともとファンドがあったわけではなくて、平行して走ってファンドレイズしていらっしゃいましたもんね。あの時のエースタートの動きは、感動ものですよね。あの時はコロナウイルス感染拡大の最中だったので、そこの感謝は絶えないです。
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渡邊そう言ってもらえるとありがたいです。あの時も覚えていますけど、1月ぐらいにファイナンスに動き出したんですが、コロナの感染拡大が想像以上になってしまって。
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岡田3か月で終わると思っていたけれど、終わらなかったですもんね。
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渡邊終わるどころか、どんどん影響が大きくなってきたので、3月ぐらいでファイナンスを止めたんです。
その後、コロナウイルスが少しだけ落ち着いた隙間のわずか3か月程で、全力でファイナンスに動いたんですよね。 -
岡田あの時の柔軟な対応、本当に感謝しています。
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渡邊コロナ禍などの障壁はありましたけど、僕がずっと本気で思っていたことは、アストロスケールでも上場できないんだったら、この日本のベンチャー業界は世界に通用しなくなると。この7年以上の間、一人でいる時はそれを呪文のように自分に口に出して言ってましたね。
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岡田ありがとうございます。多くのエネルギーをいただきました。
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渡邊そうですね。きっちり自分がブレないようにするためには、自分に呪文をかけるようにですね。そうしたら僕も自分に納得するわけです。そうだよ、心配ないさと。本当にその繰り返しです。だから続けていて、やっぱりぶれなかったし。
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岡田いつもサポートいただいたおかげで。渡邊さんには本当にお世話になってました。エースタートがいなければ今がないと思っています。ありがとうございます。
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渡邊こちらこそ、ありがとうございます。
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岡田これまで多くの株主に支えていただいてるんですけれども、やっぱり渡邊さんが言うことで他の株主も整うみたいなところがあるんですよ。シリーズEをリードしていた投資家、シリーズCからの投資家という意味でも、他の投資家から見てダントツで説得力がありました。
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渡邊今でも忘れないですけど、僕、シンガポールにお会いしに行って握手していただいた時に、岡田さんが、「これから渡邊さんにもっと宇宙の人を紹介しますよ」と、「渡邊さんがもっと宇宙ベンチャー業界でどんとやっていけるようにしますよ」って。たぶんね、そんなに真剣に言われたわけじゃない雑談の言葉だったと思うんだけど、すごい覚えていて、実は本当にそうなってるわけですよ。翌年、本当に日本で初めて宇宙ベンチャーファンドを立ち上げたわけで。
それはもう、すごく良いきっかけをいただきました。アストロスケールの成長とともにエースタートも成長させていただいたなぁと、めちゃくちゃ感謝してます。 -
岡田ありがとうございます。やっぱり、渡邊さんは起業も上場もされているので、目線が違うんでしょうね。
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渡邊そういっていただけると嬉しいです。ありがとうございます。
IPO前後の変化について
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渡邊そして大事なIPOのことですね。この度は上場を達成されて、本当におめでとうございます。まず一つ目ですが、やっぱり上場の前後で何か変わりましたか?気持ちの面、環境の面など、まだ一か月経ってないんですけど、いかがですか。
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岡田やっぱり大きなマイルストーンではありました。我々の資金需要とグローバルなパブリックエクイティ投資家の投資需要がマッチする点が見えたっていうのは重要でした。比較対象企業もないし、市場創造型というか、既存市場をディスラプトしたわけじゃなくて、市場を作りながら取り組んでいる事業です。技術レベルを参考にする相手もいないような、すべてが新しい事業なのですが、ロードショーという投資家に限られた時間内での説明で興味を持って投資していただける、そういう状態になったっていうのは、非常に大きかったと思いますね。
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渡邊印象的な言葉がありまして、岡田さんがおっしゃっていたのが、経営をしていて頭の中の半分がファイナンスなんだと。ファイナンスができたかできないかで、その先の絵が変わるんだから当然なんだと。あれはずっと忘れられないです。もう初期からずっとおっしゃっておられて。だから僕も、その頭の中のファイナンスが占める負担を少しでも軽減したいという気持ちがありましたね。
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岡田軽減したいと思ってくれる人なんてなかなかいないですよ。そんなの普通は経験したこともない人が多いし。
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渡邊そうですね。自分も同じような立場だったからその気持ちが分かるので、少しでも軽減したいと思っていて。だって、投資家回りも含めて大変なことが分かりますし。
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岡田そのように考えてくださってたんですね。ありがとうございます。本当に事業をどうするかって話とファイナンスをどうするかっていう話の2つをずっと考えていましたね。
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渡邊そういう意味でも、IPOできたことで、やっぱり経営に集中できるというか。
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岡田できるし、やっぱり加速していく感じになるので。
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渡邊これも上場で大きいことですね。
今後のビジョン
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渡邊今後の展開や、今後の取り組みたい課題だったり、あるいはこういうことを実現していくということをぜひアピールをしていただきたいです。
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岡田事業面では、僕は2030年までに軌道上サービスを当たり前にする、ルーティーンにすることを目標にしています。これまでに、アストロスケールの衛星を2機運用していますが、これからも打上げが入っていきます。複数機飛んでいて当たり前、しかも、デブリ除去や寿命延長、点検・観測が当たり前の世界を作りたいというのがひとつです。宇宙業界では2030年なんて明日みたいなものなので、とにかく先手を打って、打って、打ちまくっています。上場のおかげで打てる手が多くなりました。
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渡邊一般投資家の皆さんに伝えたいことはありますか?
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岡田まず、アストロスケールの株を持っていただいているということは、この宇宙ごみの問題に関心を持っていただいているのだと思います。ありがとうございます。この問題は、色々な課題はありますが淡々と解決していきます。今、伸び時なので中長期的に応援いただきたいです。私自身、最後の仕事だと思ってやっています。
僕はアストロスケールが手を抜くと、宇宙環境の悪化のスピードに間に合わないんじゃないか、うちが頑張らないとまずいと思っています。日々の生活は宇宙技術に依存していますので。 -
渡邊今日は本当にありがとうございました。これからも人類のために、よろしくお願いいたします!
- インタビュー実施日:2024年7月
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GUEST
株式会社アストロスケールホールディングス
代表取締役社長兼CEO 岡田 光信
スペースデブリ(宇宙ごみ)の除去を含む軌道上サービスに専業として取り組む民間企業アストロスケールホールディングスの代表取締役社長兼CEO。宇宙業界における有識者として、国際宇宙航行連盟(IAF)名誉アンバサダー、The Space Generation Advisory Council (SGAC)アドバイザリーボード、英国王立航空協会フェロー(FRAeS)、インパクトスタートアップ協会理事等の職務を兼務。2021年まで世界経済フォーラム(ダボス会議)の宇宙評議会共同議長を務めた。大学卒業後大蔵省(現財務省)主計局に勤務、のちマッキンゼー・アンド・カンパニーにて経営コンサルティングに従事。その後IT会社ターボリナックス社をはじめSUGAO PTE. LTD.等、IT業界で10年以上グローバル経営者として、日本、中国、インド、シンガポール等で活躍。著書に『愚直に、考え抜く。』(ダイヤモンド社)。1973年生まれ。兵庫県出身。東京大学農学部卒業。米国パデュー大学クラナート MBA修了。
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INTERVIEWER
株式会社エースタート
代表取締役CEO 渡邊 一正
京都大学卒業後、リクルートグループに入社し、主に人材紹介部門(現リクルート)でキャリアを積みながら、独学でベンチャーのIPO支援等を行う。 退職後、ネクストジャパンに経営参画し、CFOとして2004年に株式公開を実現。上場後、代表取締役社長に就任。2007年に退任し、ベンチャーへのコンサルティングや投資を行う。 2010年、ライドオンエクスプレスのCFOに就任。2013年に自身二度目の株式公開を経て、その後東証一部(現東証プライム市場)へ上場。 2015年、エースタートを設立、代表取締役 CEOに就任。同年より、Tech系ベンチャーファンドの運用を開始。2019年には、日本初の「宇宙ベンチャー特化型投資ファンド」をローンチ。起業家、上場企業社長、2度のIPOを牽引したCFO、投資家など、多彩な経験を併せ持つ事業家。