INTERVIEW 05
SAR衛星技術と地球観測ソリューションによる新たなインフラで持続可能な社会を実現する
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代表取締役CEO
新井 元行
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代表取締役CEO
渡邊 一正
STORY
Synspectiveは、内閣府の革新的研究開発プログラム「ImPACT」の研究成果を社会実装することを目指し、2018年に設立された。研究成果である小型SAR衛星を起点としてビジネスを展開しており、SAR衛星データの取得・販売だけでなく、取得データをデータサイエンスや機械学習を活用して解析し、「地盤変動の検出」「洪水被害状況の評価」「洋上風力発電の最適化」など、顧客の課題に合わせたクラウドベースのソリューションを提供している。2024年12月19日に東証グロース市場へ新規上場した。
創業のきっかけ
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渡邊この度は上場おめでとうございます。
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新井ありがとうございます。
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渡邊今日は色々とお話を伺いたいなと思います。まずは、新井さんの創業のきっかけやこの事業にフルコミットすることにした経緯などをお聞かせいただけますか?

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新井最初に関わり始めたのは、政府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)からです。2015年から白坂先生(Synspective創業者の一人・慶應義塾大学 教授)をはじめ、JAXAや東京大学、慶應義塾大学の先生方とも協力して進めていました。当時はフリーランスとして国際的なプロジェクトに携わっていて、特に開発途上国でビジネスを通じてどうすれば現地の人々の生活を良くできるかというプロジェクトに関わっていました。例えば、タンザニアやケニアで再生可能エネルギーを活用した事業開発などです。そのときはまだ、宇宙には少しも関わっていなかったです。そんな中で、エネルギー文脈のつながりで紹介していただいて、ImPACTに参加するところから始まりました。 ちょうどその頃、一人でフリーランスをやっていることに物足りなさがあり、仲間が必要だと感じるようになっていたんです。地球全体をデータ化し、何が起きているのかを解釈する必要があるという課題感を、すでにその時にライフワークとして持っていて、やっぱり一人ではスケールしないところにフラストレーションも感じていました。その時に、先程のImPACTのお話をいただいたんです。
その後、ImPACTの成果を社会実装するということで、Synspectiveを2018年2月に創業しました。そのときはまだ社員1人のときで、最初の資金調達が終わった後、引き込みたい仲間に声をかけていき採用を進めていきました。
1年目の資金調達が上手くいった後、一番最初に進めていたのは小型SAR衛星「StriX」シリーズによるコンステレーション構築でしたが、これは1ビジョンで、衛星の打上げよりも先に、衛星データを解析した後のソリューション開発を進めていました。2018年9月頃にはどういうチーム作りをするのか、これから組織が大きくなるからチームのトップとしてフィロソフィーをどうしていこうかとか、そういう深い話を渡邊さんに相談していましたよね。もう僕の中で、渡邊さんには創業の時からずっとメンターとしてやってもらっていて、投資家との関係という感じでもなかったですね。もちろん、投資家としてもすごい巨額を集めていただいているので、もう感謝しかないです。あと、僕以外のメンバーも直接色々と相談させていただき、本当にチーム作りをずっと支え続けてもらっていました。 -
渡邊とんでもないです。そう言っていただけると嬉しいです。
上場までの道のりで一番苦労したこと
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渡邊次の質問になりますが、上場までに一番苦労したことをお聞きしたいです。どんな苦労を乗り越えてきたのでしょうか。
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新井2回ほど転機がありました。1回目は、これも渡邊さんに相談させていただいた時ですね。あれは2022年ぐらいだったと思います。初めて会社として長期のロードマップを書く時で、2025年以降の具体的なイメージを描けなくて、全社ミーティングで前に出る時に「本当に社員に申し訳ないな」と思ってしまい、泣きながら話をしていた時があります。当時、僕がこれまでフリーランスでやってきた経験から、組織はボトムアップ型でそれぞれが考えて動けるような形をベースにしていました。個々人の働き方とか、ワークスタイル、かなり能力の高いフリーランスが集まってプロジェクトをやっていくようなイメージです。僕がやってきたことの延長線上で組織設計をしていて、最初の20-30人ぐらいの頃はうまくチームが機能していました。自分も、その中の一人だと思って動いていたんです。どこかで自分が一番馬力が出るようなケースが終わったら、誰かにバトンを渡すものであると考えていました。渡邊さんに教えていただいた例えで、一人一人の職人が、単純に目の前にある家を作っているだけなのか、町を創っているのかという。それでさっきの申し訳ないという話をしたのが2022年の頭ですね、あれが多分、自分の中で腹が据わったときでした。
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渡邊その前後で、新井さんの印象が大きく変わりましたね。絶対に続けていかなきゃいけないっていう覚悟がね。でも難しい話で、とても深い話だと思います。
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新井普通の人はあまりひっかからないと思います。フリーランス経験が邪魔をしているんですよね。でも逆に、ここからが大変なんですよ。ちょうど人数が増えてきて組織の細分化が進んでしまうと…。
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渡邊50人の壁を越えたときですね。
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新井そうです。コロナ渦の最中でしたが、これが2つ目の転機でした。僕が一番最初から皆で一緒に学びながら意識を強くしていこうという方針でやっていて、お互いにフィードバックしあっていました。それは多分、さっきのコミットメントの部分も一部あるかもしれないですし、フラットな組織を作ろうという意識が強すぎてしまって、組織が上手く機能していませんでした。常にSynspectiveでは、僕以外の全員がそれぞれの領域のプロフェッショナルです。だから余計なことをせずに、どう全体の調整に役立つかという立ち上げ方をしていました。さすがに3-4年ぐらい経ってくると、新しく入ってくるメンバーは、チームとして出来上がった状態になったところに入ってくる為、「もう少しディレクションが欲しい」という話が出てきてしまい、いかにフラットな組織でボトムアップでやっていこうかという方針が、ここで破綻してしまったんです。
僕自身のリーダーシップ力や組織の在り方をどうしようかなと悩み始め、そこから自分の中でリーダー像の研究が始まりました。会社の事業的には停滞しているわけではなかったのですが、コロナ渦で物流が停滞した際に衛星の打ち上げなどが一時期止まった時期があったんです。開発はコツコツ進めていたステージでしたが、ファイナンスは少し陰り始めた時期でした。その時に、いろいろと会社のチームとしての課題が浮き彫りになり始めました。
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渡邊そんな時期がありましたね。
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新井それでも、みんなプロ意識が高い人たちだったので、みんなそれぞれ目の前の仕事をやらなきゃいけないと事業は進んでいました。
それから現場への干渉の仕方や教育の質というところで色々とやっていく中で、会社としてのビジョンが段々固まってきました。それに去年頃から、ウクライナの紛争の影響で安全保障の予算が世界中ですごい立ち始めていました。最初は、安全保障分野を本当にやるのかという議論がありましたが、いろんな職の人たちと接点がある中で、これも技術を持ってる会社の責任としてちゃんと正しく使っていかなきゃいけない、安全保障リスクに対して絶対にやらなければいけないという話になりました。さっきの2つ目の転機でうまくいくきっかけになったのは、やっぱり事業の進捗だったんです。事業の進捗があると、チームはすごいまとまるという現実に完全に気づきました。 -
渡邊それは大事な事実ですね。
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新井まさにそのタイミングでした。事業環境が変わり今の事業がはまって、この過程で自分の中で目指すリーダー像が少し変わってきたという感じです。
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渡邊事業ドメインも安全保障のところも含め、よりビジョンが明確になっていきましたね。
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新井そうなんですよね。事業がわかりやすくなって、それで事業進捗していったわけですね。宇宙業界の人であればあるほど、絶対に安全保障の需要は大きいでしょうと、新規事業を作るようなものだっていうので繋がったんでしょうね。
IPOの準備って何年からやってるか覚えてますか?さっき見てびっくりしたんですけど。 -
渡邊2019年ですね。
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新井よく覚えてますね。2019年の終わりぐらいから主幹事証券を決め始めて、2020年春に決まったんですよ。IPOに向けて機関投資家に向けた企業説明を始めた時には、ある程度は事業計画がわかりやすくなってきていました。当然、渡邊さんにも相談させていただいて、金融市場の問題からIPOの時期を延ばしたりして。だいぶ事業がうまく進んでいたのに、外部環境に結構影響を受けていましたね。
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渡邊そういう外的変化とかもそうですし、さっきの苦労した部分で言うと組織作りのところもですが、新井さん自身がリーダーシップやビジョンも自分で昇華させていくというか、すごい強い人だなという印象でした。要するに、とにかく納得できるまで、自分をブレイクスルーするところまで、いい意味でものすごくこだわりがありましたね。新井さんと会社の成長を両方拝見させていただいて、新井さんご自身の成長がほぼ会社の成長とリンクしていました。
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新井もうどっちかというと、会社の成長に引きずられて、自分が変わらざるを得なかったですね。
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渡邊それもいいかもしれないです。フリーランスに近い人だったから自由にやっていた人が、突然チームの人数も半端ない勢いで増えていって、政府がいて株主がいて、仲間どころかステークホルダーがとんでもないペースで増えたわけですから。確かに、環境というか周りが変えたというのもありますね。今は、明確なビジョンがあるという自信が見えて、すごいと思います。